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「マイナーキーの正体」その8


前回までのあらすじ

コード進行について実際の形までたどり着きました。ところでメロディーについてはいかに…。

マイナーキーのメロディーについて、まず考えてみたいのは「HP5問題」です。

「HP5」とはアベイラブルノートスケールでの呼称ですが、平たくいえば「マイナーキーでⅤ7が現れた時には、そのキーのハーモニックマイナースケールを使う」ということです。


正式名称は「ハーモニックマイナーパーフェクト5thビロウスケール」で、略称はHP5の他に「HMP5」「HP5↓」「HMP5↓」などがあります。

ことジャズの理論書では「マイナーキーのⅤ7におけるスケールの主選択はHP5」と書かれています。しかし、そもそもマイナーキーの音階形成において「ハーモニックマイナースケールに含まれる増2度音程はNG」と考えられていたはずです。クラシックとジャズでは許容範囲の違いはあるにせよ、NGはNGなりのサウンドであるわけで…。

ここで、いくつかのHP5メロディーを見てみましょう。


これは明らかにHP5、つまりAハーモニックマイナースケールらしく動いています。このようにあからさまに増2度音程を聞かせたら、さすがにキツいメロディーになってしまいます。


このようにⅦdim7(G♯dim7)のアルペジオ音形はジャズでは典型的なフレージングです。アルペジオの形をとることで増2度音程のキツさが多少カモフラージュされますが、アドリブソロフレーズならともかく、メロディーとしてはいまひとつかと。


ファとソ♯をオクターブ離すことにより、フレーズに増2度音程を作らないようにしています。これならイケます…が、考えようによってはこのフレーズはAメロディックマイナースケール、ともいえます。つまり「ファ」はメロディックマイナースケール下行形(=ナチュラルマイナースケール)に含まれる音である、と。ファはミに向けて下行の意思を持っている音です。

もうひとつ見てみましょう。


明らかにHP5、という内訳ではありますが、間に「ラ→ソ♯」を挟んだ「ファ→ミ」という二重構造と見れば、やはりファは「メロディックマイナースケール下行形内の音」と解釈できます。

このように、よほど明確に「ファ→ソ♯」や「ソ♯→ファ」を打ち出さない限りは「メロディックマイナースケールの上行形&下行形」という解釈が、かなりの確率で成り立ちます。

Ⅴ7のHP5について見てみましたが、他のコードでも同様です。

例えばAm(Ⅰm)であれば、ナチュラル、ハーモニック、メロディックのいずれでも作り得るコードですが、軽音楽であれば自然にハマるのはナチュラルマイナースケール、旋律の動きによって、もしくはクラシックにおいてはメロディックマイナースケールも可、というところです。次の譜例①はナチュラルマイナー、②はメロディックマイナー、③はナチュラルマイナーもしくはメロディックマイナー下行形、です。


例えばDm7(Ⅳm7)でしたらナチュラルとハーモニックに存在はしますが、よほどの狙いがない限りはナチュラルマイナースケールをとるでしょう。

結果、明らかなハーモニックマイナースケールをメロディーとして使う頻度は少なく、主に使われるのはナチュラルマイナースケール(メロディックマイナースケールの下行形を含む)、それに次いでメロディックマイナースケール上行形、ということになります。

やはりハーモニックマイナースケールは「和声的短音階」の名のとおり、Ⅴ7(E7)という和声を作り出すためのものであり、メロディー素材としては使いにくい音階です。

あえての意図を持って、ハーモニックマイナースケールの増2度音程を強調したメロディーを使うことは、あります。エスニック的な演出やスパニッシュ的な色彩感を目論む場合です。Jポップにもこれが使われたものがありました。

備考です。

ジャズにおいてもHP5は増2度音程内にクッションを入れた音階で用いられることが多々あります。♭9thとM3rdの間に♯9thを加えます。


次回は「メロディーでマイナーキーを示す」ことを考えてみましょう。

つづきます。

#ジャズ理論音楽理論 #短調 #マイナーキー

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