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執筆者の写真Murai Toshio

「マイナーキーの正体」その4


前回までのあらすじ

平行長調の支配から逃れるためにマイナーキーが繰り出した三者は、それぞれが弱みを持つものの、三者の協力体制を築いてマイナーキーを作ることを決意した。

ナチュラル、ハーモニック、メロディック、これらのマイナースケールはそれぞれの強みと弱みを併せ持つものです。

それぞれの長所を活かし短所を補い合うことで、マイナーキーとしてのアイデンティティーを確立します。

その様子、そして色合いを見ていきましょう。

今回はコード進行です。

各マイナースケールのダイアトニックコード一覧表です。


それらを使ったコード進行を3つあげてみます。


◇ ①について


それぞれのコードの所属スケールをチェックします。

Am7 … ナチュラル

FM7 … ナチュラルとハーモニック

Dm7 … ナチュラルとハーモニック

Em7 … ナチュラル

FM7やDm7は2つのスケールに所属しています。その2つのどちらかにナチュラルマイナースケールが含まれていれば、基本的には、ナチュラルマイナースケールに所属するコード、と解釈します。ナチュラルマイナースケールは最も「自然に受け取れるサウンド」だからです。

結果、①のコード進行は、全面的にナチュラルマイナースケールのサウンドで作られています。その色合いはナチュラルマイナースケールのイメージを全面的に醸し出すもの、つまり「自然で耳なじみが良く、聴きやすい。しかし、Ⅴ7がないのでⅠmの響きは弱い」という色合いになります。柔らかなマイナーサウンド、といえるでしょう。

◇②について


それぞれのコードの所属は

Am7 … ナチュラル

FM7 … ナチュラルとハーモニック

Bm7(♭5) … ナチュラルとハーモニック

E7 … ハーモニックとメロディック

Am7とFM7については①と同様です。

Bm7(♭5)はⅠm7(Am7 )に徐々に向かっていく助走の時間ではありますが、やはりナチュラルマイナースケールの所属です。

E7(Ⅴ7)、「待ってました!」とばかりに登場しました。

所属はハーモニックとメロディック。

そもそもⅤ7の存在自体が人工的なものなので、Ⅴ7の所属はハーモニック、メロディック、どちらの解釈も成り立ちます。

結果、この②のコード進行は「聴きやすいナチュラルマイナーを基調にしながらも、いざ着地という時にはⅤ7を使って解決感のメリハリを付けている」ものです。E7の時間のみ、平行長調(Cメジャーキー)から解放されています。

ポップスなどでは最も多いバランスです。

◇③について


それぞれのコードの所属は

Am6 … メロディック

F♯m7(♭5) … メロディック

Bm7 … メロディック

E7 … ハーモニックとメロディック

Am6 … メロディック

ほとんどのコードがメロディックマイナースケール独自のコードです。ナチュラルマイナーの要素がないため、このコード進行は「平行長調(Cメジャーキー)の支配を全く受けていない」「Cメジャーキーから何も借りていない」状態です。①や②に比べて、Amの「主和音としての立場」が明確です。

このコード進行は必然的にメロディックマイナースケールのキャラクターが全面に醸し出されます。「Amのサウンドは主和音として揺るぎのないものだが、同主長調(Aメジャーキー)との差異が少ないので、混沌とした表情」というものです。

「混沌とした表情」という点はかならずしも短所とは言えず、その独特な印象は「大人っぽい雰囲気」「夜の雰囲気」などを演出します。ジャズはもちろんのこと、ムード歌謡などにも使われる所以です。

このように、各マイナースケールのブレンド具合でコード進行のイメージが変わります。

次号につづきます。

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