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「マイナーキーの正体」その10(最終回)


前回まであらすじ

コード進行、メロディー構成、の両面からマイナーキーを考えてきました。

「マイナーキーの正体」最終回です。

皆さんが「キーの呼び名」を使う機会を考えてみましょう。

①ジャズのスタンダードなどを演奏する時に「何のキーで演る?」という申し合わせ。

②コードアナライズやアベイラブルノートスケールの選択をするためにディグリーの設定をする時。

②クラシックの和声課題や対位法課題を解く時のキー指定。

というあたりだと思います。

それぞれについて、メジャーキーかマイナーキーかに関する「完全に正確な呼称」が必要かどうか、を考えてみましょう。

① 演奏時のキーを申し合わせる時。

例えば「You'd Be So Nice To Come Home To」を「Gマイナーキーで」と言っても「B♭メジャーキーで」と言っても、実際の演奏には支障はありません。要は「調号は♭ふたつ」であることを言えば良いことです。


②コードアナライズやアベイラブルノートスケールの選択をする時。

一時的転調など、それらが「何々キーのパーツである」ことを把握することは必ず必要です。それらはたいていⅡ-Ⅴなどのシンプルなユニットになっているので、混乱はないでしょう。

それに対して、例えば「調号が♭ひとつの譜面でのB♭M7」がある場合、それを「FメジャーキーのⅣM7」としても「Dマイナーキーの♭ⅥM7」としても、アベイラブルノートスケールは「B♭リディアンスケール」であり、どちらの立場と取るか、は結果に影響しません。これも「調号は♭ひとつのキー」であることがわかっていれば良いことです。

② クラシックの和声課題や対位法課題について。

これらは最終的に四声体の形になる時の重複音にも影響しますので、厳密でなければなりませんが、これらの課題はあらかじめ「何々Dur」「何々moll」というように「キーを設定」してあります。

クラシックの楽曲では題名のあとに「ト長調」とか「ホ短調」とか書いてあることが多々あります。軽音楽にはない習慣です。思うにクラシックにおいては楽曲構成のために「あらかじめのキー設定」が必要な習慣だったのではないでしょうか。また、それらのキーに、ある程度は縛られた形で楽曲構成をすることが、クラシックの色合いにもなっているのではないでしょうか。

このように見てくると、少なくとも軽音楽においては「ある調号において、それをメジャーキーで呼ぶかマイナーキーで呼ぶか」は、さほど重要ではないように思えてきます。もちろん「明らかなメジャーキー」や「明らかなマイナーキー」であれば、そのように呼びますが。

ここで「マイナーキーの正体 その1」で挙げた疑問の答えを考えてみましょう。

Question ① 

ジャズスタンダード「Autumn Leaves」はB♭メジャーキーでしょうか、Gマイナーキーでしょうか。

コード「Gm」はGマイナーキーのⅠmでしょうか、B♭メジャーキーのⅥmでしょうか?


演奏時にキーを申し合わせる、という用途でしたら「Gマイナーキー」と呼ぶのが妥当、と思います。メロディーの解決どころのコードもGmですし。

では、このコード進行を

・B♭メジャーキーケーデンス

・Gマイナーキーケーデンス

・セカンダリードミナント、エクステンデッドドミナント等

に分けてみましょう。


32小節内のそれぞれの割合は

B♭メジャーキーケーデンス … 12小節 / 32小節 ≒ 38パーセント

Gマイナーキーケーデンス … 15小節 / 32小節 ≒ 47パーセント

Sec.D、Ext.D等 … 5小節 / 32小節 ≒ 15パーセント

メジャーキーとマイナーキーの割合は、ややマイナー優勢ですが、半々近く。メロディーの解決どころこそGmですが、それ以外の要件では「どうしてもGマイナーキー」というわけでもなさそうです。

◇「この曲のキーは?」の答えとしては

便宜上の呼び名として訊かれれば「Gマイナーキー」。

楽曲の本質的な要素として訊かれれば「GマイナーキーとB♭メジャーキーが半々(ややマイナー優勢)」。

ちなみにさきほどの「You'd Be So Nice To Come Home To」。メロディーの最終的な着地点のコードはB♭、全体のコード進行内のGマイナーケーデンスの割合いは約56パーセント。この曲のキーは、一般的にはGマイナー、と呼ぶでしょう。「Autumn Leaves」より、若干、マイナー要素が多くなっています。着地点が最優先とは限らず、全体のマイナー感が印象に残るためです。

◇「GmはⅠm?Ⅵm?」の答えとしては

「Autumn Leaves」に限っていえば、コード「Gm」はマイナーケーデンスの中にしか出てこないので、その中ではⅠm。

しかし、たいていの場合、B♭メジャーキーの曲にもGmやGm7は頻繁に登場し、それがB♭メジャーケーデンスの中であればⅥmの扱いになる。また、前後関係によっては「B♭メジャーキーのⅥm」「GマイナーキーのⅠm」の二重構造(ピボットコードの役割り)になっていることも多々あり。

…というところでしょう。

Qestion ②

完全なAマイナーキーの曲を作るとすれば、コード「C」の使い方は?

同機能のコード連結は

本来のもの → 代理のもの

の順につなぎます。

例えばCメジャーキーの中でのサブドミナント、FM7(本来のサブドミナント)とDm7(代理のサブドミナント)があれば、

FM7 → Dm7 はオーケー

ですが、

Dm7 → FM7

は肩すかしのようなサウンドになってしまい、NGです。

で、コード「C 」と「Am」、キーがCメジャーキーかAマイナーキーか、で立場が変わります。

Cメジャーキーでは

C … 本来のトニック

Am … 代理のトニック

Aマイナーキーでは

Am … 本来のトニック

C … 代理のトニック

なので、Aマイナーキーの中でコード「C」を使う場合には

Am(本来のトニック)→ C(代理のトニック)

の連結はオーケーですが、

C(代理のトニック)→ Am(本来のトニック)

という連結はNG

ということです。

あまりによく見かけるこの「C→Am」連結、この時点でキーはCメジャーキーになってしまう、ということです。

ちなみにAマイナーキーの中でも

G → C

という連結はあり得ます。

例えば

Am → G/B → C …

Amはトニック、G/Bはサブドミナントの代理、Cはトニックの代理、です。

10回に渡ってマイナーキーについてあれこれ書き連ねました。

結論としては、軽音楽に関していえば

「マイナーキーは濃度」

と考えます。

便宜的に「この曲は何々マイナーキー」という言い方はしますが、その中身は、といえば、濃いマイナーキーもあれば薄いマイナーキーもある、ということです。

であるからして、軽音楽においては完全に正確なキーの呼称を使う必要は、さほどない、ともいえるでしょう。

「コーヒー」をマイナーキー、「牛乳」をメジャーキー(平行長調)とすれば、その混ざり具合で

ブラックコーヒー … 完全なマイナーキー

ミルク入りコーヒー … 平行長調が少し入ったマイナーキー

カフェオレ … 平行長調と半々くらいのマイナーキー、平行短調と半々くらいのメジャーキー

コーヒー牛乳 … 平行短調が少し入ったメジャーキー

ミルク … 完全なメジャーキー

というグラデーションと同じ感覚です。

「マイナーキーの正体」でした。

では、おあとがよろしいようで。

#ジャズ理論音楽理論 #短調 #マイナーキー

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